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13.ポンディチェリー
フランスの植民地だった頃は”ポンディシェリー”なんてまるで口づけしたくなるような名前で呼ばれていて、ちょっと足をのばせば自給自足で理想生活を営むコミューン「オーロヴィル」なんてのがあったり、何かとオシャレな、あるいはフランスだなという感じ。
精神修業にきてる欧米人とのひととき 2日目の朝、食堂でラバ・ティチェリーという食物をやっつけていたら、USAのおばちゃんエリカペトラに話しかけられた。「同じ青いTシャツを着てたから気になったのヨ!オホホホ」と、いたって明るい人物。アーシュラムの講座に参加するために来ているという。ここにはこういう人がたくさんいるのである。 「近くのヒンドゥー寺院入り口にいる、ラクシュミーという名の象がとっても可愛いのヨ」というので連れていってもらう。象に触るとごわごわで、極太の毛が生えており、温かかった。売店の象用の瓜をあげたら、鼻の穴から息を吸い込みつつ掃除機のようにして瓜を掴んで口に運んだ。
エリカペトラが宿泊中のゲストハウスを見せてくれるという。そこもオーロビントアーシュラムが経営するやや高級な海辺のホテルで、いざ入ろうとしたら門番に止められてしまった。残念ながら関係者以外立ち入り禁止だった。やはり新興宗教なので色々あるのか。門の側に”ししおどし”と庭石(漢字で調和と刻まれている)が飾ってあり面白かった。下の写真はその辺りの海岸。
不吉な徴 で、魔が差して生水を飲んでしまった。この頃はもう何を食べても腹を下さなくなっていたので、すっかり自分はインドの雑菌と共存できているという、根拠のない自信がついており、そんな愚行に走ったという訳だ。 生水は飲むな! 1度食中毒にかかれば一週間は余裕で消えてゆく。何年もぶらぶら放浪できる自由人はともかく、仕事や学校の休みを利用してくる人間にとって一週間のロスは大打撃である。旅程を大幅に損失してから泣いても遅すぎる。いいから生水だけ飲むな!
【実録】食中毒の展開 とりあえず正露丸、しかるのち1度嘔吐、あとは全身の倦怠感と発熱と下痢、定期的に差し込むような胃痛(ほぼ切腹の痛み)に襲われ、一晩中一睡もせずに唸りながらゴロゴロのたうち回る。まさしく生きた心地がしないとはこの事である。 普段全然吐かないので嘔吐のやり方も分からず苦労した。気持ち悪いのに怖くて吐けないというのも結構苦しい。体のためには悪い物を全部出し切るのが最善なのだが。
腹を下したらボトル水とフルーツと味噌汁と青空文庫を用意しよう
あと、腹痛とトイレへのお百度参りのために眠れないので、暇つぶしは必須だ。腹痛と闘いながらこれまでの人生を振り返るのも渋いけれど、自分の場合、iPhoneにいれた青空文庫のアプリで林芙美子『新版放浪記』と持参の『小説ブッダ』をひたすら読んだ。iPhoneは本よりずっと軽いし小さい。おまけに片手で操作できる。まさか、インドで読むとは思わなかったが林芙美子を入れておいてよかった。 「うどんのげっぷがでる。いやらしくて仕方がない。うどんに何の哲学があるのよ。天才はカステイラを食べているンでしょう?うどんの人生。」(林芙美子『新版放浪記』より) なんてのを”ポンディシェリ”で読む自分。なんなんだろうな、と思いつつも、なすすべもなし。ベッドの上で死んだように横たわりながら、食えないやら、下宿代を前借するやら、嫌いな男から借金して最悪だとかの貧乏臭い文章を目で追う。旅の空にいると、彼女の心もとない行き場のない情念や放浪する女の感情風景は沁みた。
なつかしやごはん。たくあん。煮物に白菜づけ、梅干、みそしる! それまで余裕でインド料理を食べまくっていたのに、体が弱った途端に、日本食、しかもごはん欲求が爆発した。日本人だとおもう。即席味噌汁を持参していて本当に良かった。 ところで、断食体験があったので、一日二日食わなくても全然不安にならず、むしろ体の自己修復能力を信じて待つことができたのは幸運だったと思う。断食は人生に1度は経験してみると良い。
運命の3月11日
インドに来てから初めての両替(330米ドル→1472ルピー)をしてからチェンナイ行きの急行バスに乗り込む。気さくな車掌さんと会話しつつ、ポンディから次なる目的地マハーバリプラムまで2時間半ばかりの旅。 このルートで見た風景は、とりわけ美しく印象深い。途中、広大なる塩田があった。草も生えず、ただ白い盛り土(塩)が点々としている小さな田がどこまでも連なり、そこに午後の日光が差し込んで夢のようだった。塩水湖には太陽から白金の道がのびていた。生物の気配もなく、人もいない。しんとして美しい。2,3の木船がぽつんとあった。荷物を抱えていたので写真はとらず。 そんな風景にみとれていたら、車掌さんが「どこからきたの?」ときくので「日本!」と答えたら、「日本で大きな地震があったの知ってるかい?」と言われた。全然知らなかった。車掌さんも詳しくは知らないと言う。のどかな南インドの風景を目で追いながらどんどん不安は増してゆく。
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