10.タンジョール
〜耳毛ボーボーおやじ〜

出だしは怒号
マドゥライからバス4時間半でタンジョール(タンジャーヴール)に着いた。ロイヤル・ロッヂというボロ安ホテルで、500ルピー紙幣が古くて本物か分からないから受け取れないなどと、高圧的にいちゃもんつけられた。ガンジー印の新札じゃないと本物と証明されないから駄目だというのだ。インド人どんだけガンジー好きなんだ?理由はともかくあまりな態度にぶちぎれて、男3人相手にどなりちらして出た。

もう、怒り心頭ですぐ近くの新しいホテルにチェックイン。しかも、この新品ホテルも、私が英語不自由な外人女だからと馬鹿にして”デラックスシングル660ルピーしかございませんマダム(にやにや)”と言っているのだろう、きっと多分おそらく、と思うと、先ほどの件含めて何百倍にも腹立たしさが膨れあがり、部屋は清潔だったけど、タンジョールはさっさと去るべしと決心した。

翌朝おきてみれば眉間を蚊にやられていた。踏んだり蹴ったりだ。ともあれ、ホテルわきのチャイ屋でチャイ&バーダ2個15ルピーを食べる。このお店、新築っぽいのに床にもテーブルにも蠅が飛びまくっている。店のおじさんに親切にも色々気を遣ってもらい、おかげで前夜からのむしゃくしゃが緩和され心が和らいだ。ホスピタリティ。

 

世界遺産ブリハデーシュワラ寺院
さて、とんでもなくでかいゆえにビッグ・テンプルと渾名される「ブリハデーシュワラ寺院」を見ようと地図を確かめたら、自分が街の中心オールド・バス・ステーション(OBS)ではなくニュー・バス・ステーション(NBS)にいたことに初めて気付いた。歩ける距離じゃないのでオートに乗る。地球歩には30ルピーとあったが60ルピー支払う。

タンジョールという街は「9c〜13cにかけてチョーラ朝の首都として栄えた古都」(地球の歩き方・インド'01-'11より引用)だそうだ。その栄華のなごりであるブリハデーシュワラ寺院は、とにかくめちゃくちゃでかいの一言につきる。ご本尊を安置する主塔にいたっては全長63m。スカイツリーの10分の1か。

入り口にて、人の頭を撫でる労働に使役されてる象さんに頭をなでてもらい、
「でかい。あつい。でかい。あつい。」
そんな感想を漫然と垂れ流しながら世界遺産の中をぼんやり歩いた。

人もまばらで、世界遺産と言っても観光客もまばらで、特に何があるでもない。少年達が木の回りでトカゲを見つけてさわいでいた。のどかである。

 

耳毛おやじと街の人達
Big Templeをでて次の観光地をめざして歩いたら、またしても迷った。でもこれが逆に良かった。笑顔チャージができたのだ。ロイヤル・ロッヂ(まったくロイヤルが聞いて呆れるよ)の3馬鹿トリオはただ高圧的で冷たかったけど、この街の人達は基本的に人なつこいようだ。

街中をとぼとぼ歩く外人がよほどめずらしいのか、何やかやと話しかけてくる。しかも、信じられないかもしれないが、ナンパや商売とは違う理由で。中でも耳毛オヤジとの邂逅は面白かった。

この道でいいんだろうかと半分上の空で歩いていたら、突然、視界に小さいオヤジが入ってきたのだ。なんか耳から毛がモサッと3cm程出ている。お互いにおどろいて立ち止まってしまった。耳毛のオヤジさんが微笑んだのを合図に、なんとなく2人同時に手をだして、握手をして、ニコニコ顔でさようならと別れた。この間約10秒。

なんだったのか不明だが、台本でもあるみたいに息がピッタリだった。

他にも、めがねの男に道を聞いたり、水牛が引く荷車のために道路が渋滞するのを見たり、売店のオヤジさんにタンジョール在4日目の日本人ミュージシャンの噂話を聞かされたり、可愛い女学生集団と笑顔ですれ違ったり、バイクで目的地まで送る申し出をされたり、なんてことないが楽しかった。

ただ歩いているだけなのにタンジョールの人たちは話しかけ、笑いかけてくれた。私の中に笑顔のパワーがたまってゆく。

 

パレスはお勧めしない
そんな調子で浮き浮き迷いつつたどりついたパレスは、こう申してはなんだけど、パレスとは実に名ばかりの、まったくもってボロボロの鳥糞だらけの安ペンキ物件で、そのくせ入場料ばかりが無駄に高くてガッカリだった。ミニ博物館とか塔から洗濯物アートを見たりとか、それなりに物はあるけれど、色々見てきた身としてはだからなんだというレベルで、「おいら世界中のコインを収集してんだ、日本円ちょうだいよ」みたいな与太話で係員から金をせびられたりもして、とにかくもうガッカリの二乗三乗。これからタンジョールに来る人にはパレスにゆかなくても特に損はしないとだけ言っておきたい。

 

おばちゃんに助けられる
タンジョール観光はBig Templeとパレスで終了なので、さっさと市バスに乗ってOBSからNBSへ帰って昼寝でもすることにした。もう、さっさと次の街へ行こう、そういう気分だった。

さて、地元民にまみれてバスに乗り込んで、痩せた若い切符係に2ルピー(4円!)渡したところ、なぜかもう一度2ルピー払えと言われた。他の乗客は2ルピーしか支払っていない。意味が分からなくてまごまごしつつ財布に手を出したら、後ろに陣取っていた小太りなおばちゃんがその手をそっとおさえて、頭を振った。それで切符係は何事もなかったかのように券売作業を再開したのである。確信犯だ。

「払ったら駄目、気をつけて」と言われたようで目が覚めた。

おばちゃんの心がありがたかった。たった1人で味方もなく歩いているような気持ちだったけど、そうじゃなかった。この白くてのっぺり顔の、得体の知れない異邦人を心配して見守っててくれた人もいたのだ。それを彼女は騒ぎ立てもせず、ただ2つばかりの静かな行動で示してくれた。とりあえず、自分でも気を引き締めねばと思った。

このように、インドでは市バスの切符係の約半分がこの手のぼったくり師と断言してもいいと思う。安くて便利な市民の足ゆえに、元から10円20円の激安運賃なので、仮にぼったくられたとしても被害というほどではないが、少なくとも良い気分にはならない。なので、おばちゃんに助けられたこの瞬間がその日1番強い印象を残した。言うなれば、そう、心にスッと焼き付いた忘れ難い一瞬のスナップ写真だろうか。

(もちろん耳毛氏も相当なインパクトではある)

 

インドジャーニー万歳・ポエム
さてホテルに帰り、昼寝をして、チェックアウトして、新品のくせ蠅だらけのチャイ屋でチャイを飲んだ。その様を、どうぞポエム形式でご覧下さい。

 「チャイを飲む」

 午睡あけのさめやらぬ目で
 茫然と通りを眺めやる時間のここちよさよ

 灼熱の太陽と乾いた土
 子どもがとことこ歩いてゆく
 犬が寝ている
 婆さんが店先を掃き清めている
 男が屋台を引いて通り過ぎる

 これがインド放浪の醍醐味なのだ
 この空白、この行間
 つかみ取るでもなく、奪い去るでもない
 ただ時間が染みこむにまかせるこの感じ

 色即是空空即是色
 人よ、甘くて熱いチャイを飲め
 ディス イズ インド ジャーニー

NBSからクンバーコーナム行きのバス(15ルピーのところ20ルピーとられた。10円の損失。小さい!)にのる。ローカルバスにも慣れてきた。インド音楽をガンガンにかけ、神聖なる神棚まで電飾で激しく明滅する、乗り物と言うよりはディスコに近いバスの中で、インド人に挟まれたまま運ばれて行くのも、おつなもんなのである。

 

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