16.ブバネーシュワル
〜ヒンドゥー坊主のナンパ〜

ブバネーシュワルの印象
ブバネーシュワル駅に着いたのは夜だった。プリーの一歩手前の通過地点ということで、いたのは1日だけ。静かで落ち着いた寺町だ。寺はどれも繊細な彫刻がほどこしてあり、まるでケーキみたいに美しい。旧市街には大きな池 Bindu Sarovar があり、浮き草の紫色の花が満開だった。駅近くの大通りはけっこう交通が激しくて、傷ついた動物を3匹見た。蹄から血を流す牛2頭、頭をミンチにして横たわる犬1匹。

 

もっとも美しい寺ラージャラーニ寺院
ケーキのようなブバネーシュワルの綺麗なお寺。特にここラージャラーニ寺院の彫刻が一番美しく圧倒的だった。芸術品。これまでインドを歩いて見た中で一番すごい。

マドゥライのミーナークシー寺院もすばらしかったけど、少しジャンルが違う。あそこには信仰対象として大事にされている雰囲気も含めた美しさがある。こちらは、名前の通りラージャ(王)とラーニ(女王)を祭る寺院なので、神様大好きインド人には不人気で、信仰されていないから見物人もいない。でも、像の一つ一つが精緻で、角という角が小さく微分化され、ゆるやかに丸く天を目指す様子は、何時間みても飽きない。圧倒的なアートパワーに満ち満ちているのだ。

マハーラージャ(王様)が金にあかせて才能のある技術者をたくさん集めたのか、あるいはその中に天才がいたんだろうなと勝手にキラキラの想像した。命は短く芸は長い。行った時は丁度鳥糞の掃除中で、まわりに足場が組んであったけれど、それでも見とれたものだ。インドの底力ここにもあり。一見地味なわりに入場料は世界遺産並に高いのだが、アート好きとか彫刻フリークな人は絶対にじっくり見た方がいい。(ちなみに、地球の歩き方’10〜’11ではムクテーシュワラ寺院の写真にラージャラーニ寺院とキャプションしてあった。ひどい間違い)

 

ヒンドゥー坊主のナンパ?
ムクテーシュワラ寺院も見物した。優美な彫刻におおわれた小さい寺で小さいガート(沐浴用の池)には魚がスイスイ泳いでいた。そのあと、町1番のリンガラージ寺院に行く。ここはヒンドゥー教徒しか入れない寺なので、入り口だけ見に行ったら、バイクに乗ったインド人に話しかけられた。

見ればオールバックのにやけた感じのモンクである。いきなり日本語をまじえながらの身の上話をされる。それによると、数年前まで日本人の奥さんがいたが、癌になり一人娘を残して亡くなったのだそうだ。後日、プリーの日本人宿でこの話をしたら日本人旅行者には有名なお坊さんと判明した。よほど日本人、というか奥さんが好きだったのだろう。

勧められるまま、信者に施されるご飯をもらったり、リンガラージ寺院がよく見える場所に案内してもらったり、モンクたちが毎日沐浴するという小さくて静かなガートや、修業のために育てられている大麻を見せてもらったり、色々親切にしてもらう。娘にもぜひ会って欲しいというので、バイク2ケツにて坊さんの家に行った。池のすぐ側にある3,4階立ての集合住宅だ。各階には親戚が暮らして居るのだそうだ。インドではこういう、建物一個に親戚一同で暮らすのが一般的なのだろうか。

家にはお爺さんと自慢の1人娘ヒラルーちゃんがいた。日印ハーフの可愛い女の子である。たぶん、何人もの日本人がこうしてヒラルーちゃんと挨拶したんだろうな、と思いつつ、ぎこちない会話をした。ヒラルーちゃんが亡くなったお母さんの写真を見せてくれた。やや色あせた写真にはピュアーな感じの若い日本人女性がはじけるように明るく笑っていた。何を思ってひとりインドに嫁ぎ、死んでいったのだろう。何の縁もない人だけど忘れられない笑顔である。

しばらくしたら、坊さんが日本に電話をかけたいとのことで通訳を頼まれた。大阪に住む奥さんの親戚が地震の後、無事かどうか心配なのだという。でもその親戚は日本語しかしゃべれない。そうか、そのために呼ばれたのかと、使命感に燃え、たどたどしい英語で「無事で元気」という内容を同時通訳した。坊さん、爺さん、ヒラルーちゃん、皆かじりつかんばかりに聴いて喜んでいた。良かった。坊さんの兄弟が翌日結婚式をあげるとかで、出席してほしいと言われたが、一刻も早くプリー(というか日本人宿)に行きたかったので断る。帰り際、ヒラルーちゃんからキーホルダーをもらった。人生一期一会。坊さん一家よ、楽しいひとときをありがとう。

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